おばちゃんDays

調理師たき子によるオオサカのおばちゃんブログ

ネタバレご注意!“想像力の射程”が問われるドラマ『乱反射』

ドラマ『乱反射』の感想

こんにちは、たき子です。

先だっての9月22日(土)、ABCテレビでメ~テレ製作のスペシャルドラマ『乱反射』が放送されました。



いろいろ考えさせられるドラマでしたので、ご紹介させていただきたいと思います。

完全にネタバレになりますので、これから見ようと思っておられる方、もしくは原作本を読んでみようと思われている方はご注意くださいね!


『乱反射』あらすじ

新聞記者加山聡(妻夫木聡)と妻・光恵(井上真央)の夫婦には、翔太(小岸洸琉)という2歳の子どもがいる。

ある日、光恵が押すベビーカーが、強風で倒れた街路樹の下敷きになり、翔太は救急車で搬送されるが死亡してしまう。

受け入れ拒否でたらい回しされたあげく、やっと治療を受けられたのは2時間後のことだった。

は、なぜ子どもが死ぬことになったのか、責任は誰にあるのかを突き止めようとする。

街路樹の診断士の怠慢?
街路樹を管理している区役所?
受け入れ拒否した医者?

やがては、事故は誰か一人ではなく、それぞれの少しずつの無責任な行動によって引き起こされた物だと知り、やりきれない思いになるが、自分の中にも同じような無責任さがあることに気づくことになる。

以下、もう少し詳しくドラマを振り返ってみます。

少し長くなりますが、よろしければお付き合いくださいますよう、よろしくお願いします。


実際にいそうな傍観者

台風21号で倒れた巨木を目の当たりにした後にこのドラマを観たので、それだけでもリアリティがありました。

のっけから街路樹が倒れて子どもが下敷きになるというショッキングなシーンから始まります。



救急車に運びこまれる子どもをスマホで撮影する事故の目撃者。



SNSにアップするのでしょうか。

そしてドラマでは事故が起きる前に戻り、街路樹が倒れるまでの出来事が順に明らかになります。


盲目的な街路樹伐採反対運動

まず、造園土木会社の二人が市から委託され街路樹の診断を行っています。



しかし、街路樹伐採に反対する住民運動の妨害にあい、問題の倒木した樹は後回しになってしまいます。



市民運動の主婦軍団は、街路樹の診断など嘘だと決め付け、

「街路樹を切るなど許せない」

とヒステリックに叫び、作業を止めさせるます。

そして、主婦・粕谷静江(筒井真理子)は、自分達が妨害して作業を止めさせた樹が倒れた樹だと知り、仲間と口を閉ざすよう示し会わせるのです。




犬の糞を放置する老人

そして、不幸なことに、他にも街路樹の診断を阻む出来事が重なりました。

定年退職した老人・三隅幸造(田山涼成)が、犬を連れた散歩途中、問題の樹の根本に犬の糞を放置していたのです。



造園土木業者の社員・足達道洋(萩原聖人)は、極度の潔癖性を患っており、犬の糞が放置されたままの樹に近寄ることができません。

こうして、問題の樹は、診断されることなく事故当日を迎えることとなるのです。

しかも後日、犬の糞を放置した当の本人三隅は、テレビで事故のニュースを観て、

「いつも散歩している道だよ。怖いねえ」

と、愛犬に語りかけるのです。



頭をなでている、その愛犬の糞を片付けなかった自分の行動が事故の要因の一つとなったことに気づくことなどなく、行政が怠慢だと批判までします。


クレームにうんざりの市職員

その批判の矛先である、街路樹を管理する市の職員小林(芹澤興人)。



子どもを殺した責任が誰にあるのか突き止めようとするは、小林の責任を問います。

「市としましてはお教えするとこはできない」

「市としましては承っておりません」

「市としましては改めて調査をします」

当初小林は、子どもの死は市の責任ではないと主張しますが、犬の糞が放置されていたから街路樹の診断ができなかったことをに追求されると、

「そういうネチネチしたクレームはうんざりなんですよ。市民はいつもそうだ。ネチネチ、ネチネチ、ネチネチ、ネチネチ。私は犬のウンチを片付けるために公務員試験を受けたんじゃない!」

と逆ギレしするのです。



「私は悪くない、私は悪くない」

と繰り返す小林役・芹澤興人さんの怪演は見ものです。

そんな小林を凝視する、の歪んだ微笑が印象的でした。




アルバイト当直医の主張
「殺したのは無数の馬鹿ども」


虚しい思いを抱えるが最後に向かった先は、最初に翔太を受け入れ拒否した病院の当直医久米川(三浦貴大)でした。

事故当初の久米川は、急患を受け入れなかった事で子どもが死んだ責任を感じるどころか、

「受け入れて死なれたら責任問題になりかねなかった。巻き込まれなくて良かった。僕の言ったとおりでしょ」

と看護師に言ってのけました。



アルバイト医である久米川は、に責められ

「文句があるなら風邪ぐらいで夜間診療に来る馬鹿どもに言ってくれ。すいてるから、と学生が口コミで来る」

と、忙しくて受け入れ拒否した釈明をします。

「息子さんを殺したのは無数の馬鹿どもですよ!」

と自分の正当性を主張する久米川は、

「じゃあ俺はいったい誰を殺せばいいんだ!!」

と叫ぶのです。


ひとすじの希望


もう事故の責任を追求するのはやめると光恵に話す

そんな二人に、光恵の職場の女性が

「元気だして!」

と、お手製のサンドイッチを届けます。

子ども部屋で、サンドイッチにかぶりつく場面は、原作にはないオリジナルの場面なのだそうです。



無数の馬鹿ども」であふれる世の中の『ひとすじの希望』の象徴とも言える場面でした。


ラストに突き付けられる
 自分達もけっして無罪ではない

しかし、そこで終わらないのが、このドラマの深いところです。

ラストが一番重いシーンでした。

は、夫婦で出掛けた途中立ち寄った公園のゴミ箱に、家庭ごみを捨てるのです。

ここで、かすかにの瞳孔が開きます。
そして、光恵を見つめます。



これが、が自分達もまた、翔太を殺した「無数の馬鹿ども」の一人と同じだったことを自覚した瞬間でした。

実は、事故が起こる前、3人でピクニックに来ていました。



その時にも同じように車に家庭ゴミを積んでおり、光恵

「家で捨てられないから捨ててきて」

と、公園のゴミ箱に捨てるように頼みます。



家庭ゴミを捨てるな

と書かれた貼り紙を前に、気まずそうに辺りを見回す



そして、ゴミをゴミ箱に押し込むのです。




“想像力の射程”とは

このドラマに、決定的な悪人はいません。

でも、全員が少しずつ無責任。
少しずつ加害者。

そして被害者自信ももしかすると、気づかないうちに誰かの加害者になってるのかもれない。

キーワードは、このブログのタイトルにも引用させていただいた“想像力の射程”です。

この“想像力の射程”とは、事故が起こる前、新聞記者である聡がデスクに向かって言った

「俺にもそういう(誘拐事件)デカい事件回してくださいよ。何で俺はオバさん達のデモなんですか。ずるいですよ」

の言葉に対し、後輩から返ってきた言葉です。

「小さい子どもが誘拐されて殺されちゃったんですよ。今ごろその子のお母さんはどんな気持ちなんだろう。ずるいですよって言うのはあんまりじゃないですか。そういうの“想像力の射程”が短いって言うんです」

と非難されています。



翔太は、まさにこの“想像力の射程”が短い人たちに殺された。

このドラマでは、翔太を死なせた原因を作った事を後悔している人もいれば、お鉢が回ってこなくて胸をなでおろしている人もいるし、自分が関わっていることに気づかない人すらいます。

ラストシーンの、捨ててはいけない場所にゴミを捨てた時のの愕然とした表情は、そのことに一瞬にして気づいてしまったことを示しているに違いありません。

そして、自分も知らない間に加害者になってしまってるかもしれないことに戦慄を覚えただろうと推測します。

原作は貫井徳郎さんの小説『乱反射(朝日文庫)』。
近いうちに貫井さんの小説も読んでみたいと思っています。


想像力の射程”の短さが
 引き起こすモラルの欠如

こうした、“想像力の射程”の短かさが引き起こすモラルの欠如は、いたるところで見受けられます。

こんなエピソードを思い出しました。

以前、大阪市では、一定の水準以下の一人親家庭は母子共に医療費が無料だった時代があります。

そして、それはシミを取るための美容レーザーにも適用されていました(現在は適用外です)。

ある日、同じ母子家庭の母から、

「タダでシミが取れるんだから貴女も行っといたほうがいいよ~」

と言われました。


想像力の射程”を長く持っていたい

彼女は、軽い気持ちで“タダ”でシミ取りを繰り返していました。
その費用は税金から出ているということを深く考えもせず。

そんな風に不要な治療で医療費が圧迫され、回り回っていつか彼女自身本当に必要な時に必要な医療が受けられなくて、命を落とすことになるのかもしれない…ということは想像力の射程外なのでしょう。

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もちろん、偉そうに批判する私も無罪ではありません。

旅行に行く時、駅のゴミ箱に家庭ごみを捨てたことがあるし、コンビニおにぎりの包み紙をペットボトル専用と書かれたゴミ箱に捨てたこともあります。

他にも、気づいていないだけで、もっと罪深いことをしたことがあるのかもしれません。

知らない間に誰もが加害者になる可能性があるということを、でも、それは回避できたかもしれないということを、そして“想像力の射程”を、長く持てるような人間になりたいと、考えさせられたドラマでした。


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10月2日(火)


初心忘るべからず